ラストバージン
(なぁんだ……)


緊張しているのが自分だけじゃない事にホッとして、飄々とした態度を繕うような恋人の可愛らしい一面を垣間見れた事にクスリと笑いが零れる。


「笑うなよ……」

「ごめんね」


ムッとした顔でアクセルを踏んだ榛名さんは、うなだれるように小さなため息を漏らした。


「でも、大丈夫だよ」


そんな彼に、柔らかい笑顔を向ける。


「ん?」

「反対なんてされないよ、絶対に」

「どうして言い切れるんだよ?」


有り得ないと言わんばかりに苦笑した横顔に、瞳をそっと緩めた。


「あなたは、私が選んだ人だから」


すると、真っ直ぐに前を見ていた榛名さんの目が小さく見開かれて、直後に彼がフッと微笑んだ。


「嬉しい事言ってくれるね」

「だから、そんな事よりも、質問攻めにされる事を心配した方がいいよ」


姉が孝輔さんを紹介した時の母の様子を思い出しながら、「本当に逃げられないからね」と苦笑を浮かべる。


「これでも教師だから、質問攻めには慣れているつもりだよ。とにかく、葵のご両親に気に入られるように頑張ってみるよ」


榛名さんの言葉に素直に喜びを感じた私は、ようやく覚悟を決める事が出来た。

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