ラストバージン
「実は、もう葵の分も申し込みしちゃったんだよね」


私の知らないところで、本人の予定も確認せずに先手を打っていたらしい。


「ちょっと、どういう事?」

「もし断られても、申し込みしてるって言ったら付き合ってくれるかな、って思って」

「だからって、私の予定も確認しないで申し込んだの?」

「だって、メールで訊いた時に明日は日勤だって言ってたし、葵の事だから日勤の後は予定入れてないだろうな〜って。余程の事がない限り、いつもそうでしょ?」


私の事をよく知っている菜摘だからこそ、為せる事だろう。
ぐうの音も出ない私は、そんな彼女に完敗してしまったらしい。


「大丈夫よ、葵は初参加だから無料だし! それに、一緒に申し込んだ私も半額になったし、お得でしょ?」


お得なのは菜摘であって、私には何のメリットも見出だせない。


「……ここ、奢ってね」


仕方なく諦める事にした私は、ニコニコと笑う彼女をじとっと見た。


「もちろん!」


憂鬱に憂鬱が重なった心は、どんよりとしている。
カップルや女性客ばかりで賑わうイタリアンの店内でこんなにも暗い表情をしているのは私だけだろうと、ため息が漏れた――。

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