ラストバージン
* * *
優しい鐘の音が響き渡る小さなチャペルで、祝福の言葉が飛び交う。
純白の衣装に包まれた二人は腕を組み、幸せそうにフラワーシャワーを浴びていた。
「おめでとう」
「ありがとう」
春までにはまだもう少し掛かりそうな、二月下旬の今日。
菜摘と澤部さんは、神様と神父、そして二人を祝福する為に訪れた人達の前で永遠の誓いを交わした。
「次は葵の番だからね」
「どうかな」
笑顔に苦笑を返しながらも、差し出されたブーケを「ありがとう」と受け取る。
榛名さんとは相変わらず順調だし、彼のご家族に挨拶に伺った時も歓迎して貰えたけれど、まだ具体的な話は出ていない。
だから、曖昧に微笑んで見せた。
「何となくだけど、葵ももうすぐだと思うのよね」
「え?」
「だって、絶対にご利益あるから」
「お守りじゃないんだから」
ブーケを指差して悪戯に微笑んだ菜摘に吹き出すと、彼女は柔らかい笑みを残して澤部さんのところに行ってしまった。
どこか他人行儀な付き合い方をしていた母親も、滅多に連絡を取っていなかった父親も、菜摘を感慨深げに見つめている。
そんな親友の幸せを、心から素直に喜ぶ事が出来た。