ラストバージン
「えっ、と……」


別に、嫌だという訳じゃない。
年齢は近いし、ルックスも印象もいいし、職業だって申し分ない。


言わば、本当に〝素敵な人〟なのだろう。


だけど……。

「私……」

今日会ったばかりの男性に連絡先を教える事に少なからず警戒心があって、逃げるように俯いてしまった。


「そんなに難しく考えないで下さい。まずはお友達として食事にでも付き合って頂ければ嬉しいな、と思っているだけですから」


それは裏を返せば、〝その先もあるかもしれない〟という事。
想像した〝もしかしたら〟に躊躇して、顔を上げられないまま眉を小さく寄せる。


恋愛に前向きになれないのなら、やっぱりそもそもこんなところに来るべきじゃなかったのだ。


「じゃあ、アドレスだけならどうですか?」

「え?」

「メールでもう少しお話してみて、もし電話番号も教えてもいいと思って頂ければ、その時に教えて下さい」


メールアドレスなら、いざという時に変えてしまう事も出来る。


「それなら……」

「ありがとうございます」


逃げ道を与えて貰えた事に少しだけ気が緩んで、ようやくバッグの中からスマホを取り出す事が出来た。

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