ラストバージン
* * *
【今週末、お時間ありませんか?】
十五時前にようやく取れた昼休憩のさなか、中庭のベンチに座って読んだメールにため息をついた。
「そんなに難しい内容なの? そのメール」
「え? ……あ、恭子」
「久しぶりね」と笑った立石恭子とは大学時代の同級生で、大学に入学してすぐに気さくな性格の彼女に声を掛けられた以来の仲だ。
「本当、久しぶり。同じ院内にいるのに、最近はあんまり会わないもんね」
今は内科病棟にいる恭子に微笑むと、彼女が缶コーヒーを差し出した。
「ありがとう」
「どういたしまして」
半年前に結婚した恭子の薬指には、マリッジリングが収まっている。
「内線では、よく話してる気がするんだけどね。まぁ内科とリハ科じゃ病棟も違うし、葵は今年度から主任になって忙しいみたいだしね。主任はどう?」
「おかげさまで毎日忙しいよ。恭子こそ、新婚生活はどう?」
看護師になってからずっとここで働いている恭子がリハビリ科病棟にいれば、きっと彼女が主任になっていたに違いない。
ただ、恭子は妊娠したら退職するつもりでいるらしく、本人には出世願望は無いようだけれど……。