ラストバージン
「まぁ、ぼちぼちやってるよ。内科はかなり忙しいけど、人手は充分足りてるから残業が少ないし、とりあえず生活には支障はないかな」

「だったら、うちに戻って来てよ。うちは今年も人手不足だし……」

「私、内科で人気者だから無理だよ」


冗談めかして笑った恭子に釣られて小さく吹き出すと、彼女が神妙な表情になった。


「あのさ、葵」

「何?」


真剣な声音の恭子が何を話そうとしているのかはわからなかったけど、何故だか心臓が小さく跳ね上がった。


「私、今年いっぱいで辞める事になったの」

「え……?」

「妊娠、したんだ」


続けて届いた言葉に、目を大きく見開いてしまう。


「先月、わかったんだ。本当はギリギリまで働こうかと思っていたんだけど、たぶん今年度いっぱいまで勤務するのは厳しいし、だったら今年いっぱいで退職した方がいいかな、って」


恭子は眉を小さく寄せ、どこか控え目に苦笑を零した。


「葵にはちゃんと報告したかったから休みが合えば食事にでも行きたかったんだけど、主任になってからずっと忙しそうだから誘いづらくて、結局こんな形になっちゃった……。ごめんね」


申し訳なさそうな彼女にハッとし、慌てて口を開いた。

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