ラストバージン
「ねぇ、葵」

「どうしたの?」


思い詰めたような顔を向けられてドキッとしたのは、すぐにその表情の意味に気付いたから……。


「……大丈夫?」

「何が?」

「私がいなくなって……」


控え目ながらもしっかりとした口調で紡がれた言葉に、少しの間を置いてから微笑んで見せた。


「平気だよ。ここに来てから、もう随分経ったんだから」


恭子は私が前の病院を辞めた理由を知っている、唯一の人。


別々の病院で働いていたにもかかわらず、久しぶりに会った時に誰にも言えずに悩んでいた私の様子に気付き、ずっと傍にいてくれて……。前の病院に居づらくなっていた当時の私に、恭子は今の病院が求人している事を教えてくれた上で、『面接を受けてみたら?』と勧めてくれたのだ。


「……本当に?」


だからなのだろう。
念を押すくらい、心配そうにしているのは……。


だけど……。

「うん、本当だよ」

笑みを浮かべて発した言葉に、決して嘘はない。


大体、この年になれば、それなりの〝誤魔化し方〟を覚えられるもの。
そして、それと同じように、自分の過去と折り合いを付ける事だって出来るようになるものだ。

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