ラストバージン
軽快な音に眉を寄せ、寝ぼけ眼のまま手探りで目覚まし時計に触れる。
直後に止まったアラームに脱力した手がベッドの上でダラリと伸び、再び夢の中に誘われそうになったところでハッとした。


「起きなきゃっ……!」


いつもならダラダラと過ごすところだけれど、今夜はこれから約束がある。
乗り気になれないまま迎えた今日に、心は憂鬱を訴えている。


それでも、約束を破りたくないという思いだけを頼りに体を起こし、グッと伸びをした。
昨夜、出勤する前に服を選んでおいて良かったとため息をつき、アイボリーのブラウスとネイビーの膝下丈のスカートを身に着ける。


緩いパーマが掛かったミディアムの髪は、トップの部分を後ろでバレッタで留めた。
ヘアアレンジが苦手な私はいつも、簡単に出来るヘアスタイルに落ち着くのだ。


寝起きの二重の瞳は腫れぼったさが残っているから、気休め程度にしかならないとわかっていながらもフェイスマッサージをした後でメイクを済ませる。
そこで時計に視線を遣ると、起床してから一時間以上も経っていた。


ハンドバッグにスマホを入れ、お気に入りのショップで購入したばかりのパンプスを履く。
そして、憂鬱な気持ちのまま家を出た。

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