ラストバージン
バスルームから出ると真っ先に洗面台の前で念入りにスキンケアを施し、その後で美容室で購入したヘアオイルを塗り込んだ髪を乾かした。


不規則な職業故にすぐにボロボロになる肌に掛ける時間とお金は、二十代後半の頃から出来るだけ惜しまないようになって……。スキンケア用品は、全てデパートでカウンセリングをして貰った上で有名ブランドの物で揃え、月に一度のフェイシャルエステも欠かせない。


職業柄、髪型やメイクやネイルといった〝上辺〟にはそれなりに厳しい制限がある分、〝土台〟には手間とお金を掛ける事にしているのだ。
その代わり、服や装飾品に掛ける金額は周囲と比べると遥かに低く、休日は一人で過ごす事が多いから交際費も少ない。


1LDKの部屋は通勤の利便性を重視したせいで家賃はそれなりだけれど、かと言って決して高額な訳ではない。
だから、実家への仕送りと自分の生活費を差し引いても、毎月きちんと貯金だって出来ている。


子どもの頃から真面目な性格だった事もあり、何かが足りないという惜しさにさえ目をつむれば、両親や友達に心配をされるような事のない堅実な人生を歩んで来た。
ただ、それはある一つの事を除けば、の話だけれど――。

< 6 / 318 >

この作品をシェア

pagetop