ラストバージン
メモに書かれていたのは店名らしき文字と、待ち合わせの日時だと思われる数字。
ついでに、ご丁寧に相手の名前まで記してあった。
「お相手の佐原聡さんは、大手商社マンなんですって。お母さんの友達の紹介なんだけど、性格も温厚でとてもいい方らしいわよ」
「ねぇ、お母さん……。私、やっぱりお見合いは……」
「約束だったでしょう? それとも、お母さんの顔を潰すつもり?」
勇気を出した私の言葉を跳ね退けた母が、有無を言わせまいと微笑む。
「潰すって、そんな……」
「別に付き合わなくてもいいから、とにかく一度お会いしてみなさい。何なら、返事はお母さんからしてあげるから」
あくまで一方的に突き付けられていた約束とは言え、母なりの気遣いだというのはわかっているつもりだし、確かに母の面子だってあるだろう。
年末の電話で、わざわざ私の休暇を確認していた理由はやっぱりこれだったのかとため息をつき、仕方なく覚悟を決める。
「……わかった」
「軽い気持ちで構わないから、頑張りなさい」
『軽い気持ちで』と言いながら、『頑張れ』なんて。
呈された矛盾に、また深いため息が漏れた。
ついでに、ご丁寧に相手の名前まで記してあった。
「お相手の佐原聡さんは、大手商社マンなんですって。お母さんの友達の紹介なんだけど、性格も温厚でとてもいい方らしいわよ」
「ねぇ、お母さん……。私、やっぱりお見合いは……」
「約束だったでしょう? それとも、お母さんの顔を潰すつもり?」
勇気を出した私の言葉を跳ね退けた母が、有無を言わせまいと微笑む。
「潰すって、そんな……」
「別に付き合わなくてもいいから、とにかく一度お会いしてみなさい。何なら、返事はお母さんからしてあげるから」
あくまで一方的に突き付けられていた約束とは言え、母なりの気遣いだというのはわかっているつもりだし、確かに母の面子だってあるだろう。
年末の電話で、わざわざ私の休暇を確認していた理由はやっぱりこれだったのかとため息をつき、仕方なく覚悟を決める。
「……わかった」
「軽い気持ちで構わないから、頑張りなさい」
『軽い気持ちで』と言いながら、『頑張れ』なんて。
呈された矛盾に、また深いため息が漏れた。