ラストバージン
夕方には帰るつもりだった私は、腰を上げようとする度に桃子と孝太にせがまれて結局は夜まで実家で過ごし、眠気に包まれた重い体を引きずるようにして帰宅した。


手帳に挟んでおいたメモを出し、息を小さく吐く。
最近、母が益々強引になっているような気がするのは、きっと気のせいじゃないだろう。


指定されたお店はリーズナブルな割烹らしいけれど、予約されているのは個室だと聞いて気が重くなる一方だった。


別に、お見合いに偏見を持っているつもりはない。
だけど、私はまだ恋愛も結婚も本気でしたいとは思えていない。


恋愛に乗り気になれない私には、お見合いのように用意された出会いの方がいいのかもしれないとは思う。
その一方で、お見合いなんて婚活パーティー以上に結婚願望の強い人がするものというイメージがあって、この間の一件を考えると気が引けた。


今更断れないし、もちろんすっぽかす訳にもいかないけれど……。何とか悪足掻きをしようとする私がいて、断る言い訳ばかりを考えてしまう。


こういう時は楓のマスターに話を聞いて貰いたいのに、残念ながら年末年始は二週間もお店を閉めているらしく、彼に会えるのはどんなに早くてもお見合いの当日だった――。

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