ラストバージン
すぐさま「ブレンドを」と注文した榛名さんに、ほんの僅かだけれど親近感を抱く。


「お待たせ致しました」

「ありがとうございます」


伏し目がちにコーヒーカップに口付ける榛名さんの横顔は、どこか憂いを帯びているような雰囲気があって……。

「うん、美味しい」

その表情を敢えて表現するのなら、〝セクシー〟という言葉がピッタリだと思った。


私の視線に気付いたのか、ふと榛名さんが視線を寄越した。
慌てて目を逸らし、姿勢を正す。


「今日はお仕事だったんですか?」


すると、そんな私に助け船を出すかのようなタイミングで、マスターの穏やかな声音が落ちた。


「いえ……」


スーツを着ているのに否定をした榛名さんが、どうしてそんな格好をしているのかと疑問を持ってしまう。
彼とは顔見知り程度の関係で、相手は私の事を覚えてすらいないのかもしれないのだから、私達は赤の他人もいいところ。


それなのに……何故か榛名さんの事が気になって、マスターが何か訊いてくれないかとつい考えてしまう。


「お休みなのにスーツを着ておられるなんて、珍しいですね」


そんな私に応えるかのように、疑問形に近い言葉が紡がれた。

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