ラストバージン
「それはそれは……。大変でしたね」

「本当に疲れました」


話を聞かないようにしようにも、内容が内容なだけにどうしても耳を傾けてしまって……。

「相手の女性はいい方だとは思ったんですが、一緒にいる間に一度も恋愛や結婚を考えられなくて……。もちろんたった一度会っただけで何がわかる訳でもないでしょうが、お断りして帰って来ました」

その上、とても共感してしまい、思わず相槌を打ちそうになる。


「こんな風に考えている男とお見合いなんて、相手の方には無駄な時間を過ごさせてしまって申し訳なかったです……」

「誠実だと……」


そのうち唇を止めた榛名さんに、つい言葉を紡いでしまっていた。


「え?」


直後に私を見た彼はキョトンとしていて、マスターも驚いているようだったけれど……。

「とても誠実だと思います」

その視線と自分自身の言動に戸惑いつつも、感じたままを口にした。


「えっと……」

「すみません、突然……。でも、何だか他人事に思えなくて……」


益々怪訝な表情になった榛名さんに、苦笑を浮かべる。


「実は、私もお見合いをして来たばかりなんです」


そして、自分でも驚く程すんなりとそう告げた。

< 90 / 318 >

この作品をシェア

pagetop