ラストバージン
「もしよろしければ、一杯だけ付き合って頂けませんか?」

「え?」

「なんて、まるでお酒の誘いみたいですね。でも、何だか親近感が湧いてしまって」


キョトンとした私に笑顔を向けた榛名さんは、「もちろんご馳走します」と瞳を緩めた。
声を掛けたのは私の方だとは言え、ご馳走して貰う事に気が引けて悩んでいると、マスターがニッコリと笑った。


「ブレンドでよろしいですか?」

「え? でも……」

「結木さん、いい男からの誘いは受けた方がよろしいですよ」


悪戯な声音のマスターに、戸惑いがそっと払拭される。


「じゃあ、いただきます」


私の言葉に、榛名さんとマスターが破顔した。


三杯目ともなると、さすがにお腹がタプタプになりそうな気がしたけれど……。マスターの淹れてくれるブレンドはやっぱり美味しくて、しかも榛名さんとは何故かさっきのお見合いでの事で盛り上がった。


「インスタントラーメンって!」

「そんなに笑わないで下さい! だって、本当に緊張と憂鬱で味がわからなかったんですよ」


誰かとこんな風に笑い合えたのは久しぶりで、ここ最近で一番楽しいと感じたくらい有意義な時間を過ごした――。

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