チャラ男とちょうちょ
あたしたちだけでは、マグナムボトルを飲みきることが出来るわけもない。
社長は、今いるお客様にも一杯ずつ分けるように店長に言った。

ボーイたちがお客様全員にシャンパンを配る準備を始める。
あたしは、店長にマイクをお願いした。

「あの!せっかくだからみんなで乾杯しませんか?この場で一緒になったのも何かの縁だと思うし!」

とお客様に向かって聞いた。
酔っ払いの社長は、いいね!と言った。
他のお客様から自然と拍手がわき起こった。
相変わらず裕貴は、黙っていたけど。

お客様全員にシャンパンが行き渡る。
もちろん裕貴にも。
お客様はなんだかみんなうれしそうだ。

「じゃ、社長お願いね」

と言うと、なんだよーと言いながらもフロアの真ん中に歩いていく。

「えー…。リオナちゃんが言ったように、ここに居合わせたのも何かの縁っつーことで!かんぱーい‼︎kiss最高!」

みんなでグラスを傾ける。シャンパングラスのチンという音が気持ちいい。

あたしも勢いで、他のお客様ひとりひとりと乾杯して回った。

最後に、裕貴の元に向かった。
裕貴はあたしのことを見つめた。

「…乾杯は?」

そう聞くと、裕貴はそっとグラスを合わせた。

「お水、持ってこようか?」

「大丈夫…」

そう言って裕貴は、テーブルの下であたしの手に指を絡めた。
しばらくそのまま黙って、

「帰るわ」

と言ってチェックを済ませると席を立った。

kissの方も閉店まで盛り上がった。
初めてこのお祭りのような騒ぎを経験したキャストたちは、また飲みたいなと口々に言った。

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