チャラ男とちょうちょ
あたしは、涙香さんの話を聞いた。
でも、仕事の話はあたしから聞かないようにした。
普通の話。ペットの話やアクセサリーの話、好きな食べ物、好きな曲。
飲み屋とは思えないような話をした。

ハウスボトルが一本空になったとき、涙香さんはもう一本頼もうとした。

「ダメです。飲み過ぎです」

あたしは止めた。

「…確かに、酒抜けてないまんま来たからいつもよりヤバイかも」

「やっぱり」

「バレてた?」

「あったかいお茶にしますか?…お水がいいかな?」

「お茶にする」

で、あたしは涙香さんの酔いが落ち着くまでゆっくりお茶を飲んだ。

閉店間際になると、涙香さんはお店で一番高いお酒を入れると言い出した。
だけどそういうわけにはいかないから、やめてくれと頼んだ。

「高いの入れておけば、また遊びにくる口実ができるでしょ」

と涙香さんが言った。
いろいろ言われたけど、あたしは首を縦に振らなかった。
涙香さんは困った様子だった。

「少しは、俺にかっこつけさせて?」

と。

「わかりました…」

あたしはそう言った。
涙香さんは、レミーマルタンルイ13世を入れた。
うちのお店では50万くらい。
あたしは、もっと安いのでと頼んだけど聞いてくれなかった。
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