赤ずきん
赤ずきんちゃん・・・・・?

赤ずきんちゃんは今日も何時ものようにおばあちゃんにワインとベーコンとパンを届けにいきます

おばあちゃんの家へはほぼ一本道でした。

家を出てからおばあちゃんの家に行くまでの間徐々に赤ずきんちゃんはまるで知らない誰かのように成っていきました。

鋭く相手を射るような目付き、まるで獲物を狙う獣のようでした。口許は薄笑いを浮かべているようでした。

赤ずきんちゃん・・・・・・・・・・・・?



けれどそれには訳がありました。

でもその訳を知るものは誰もいません。


ーーーーーーーーーーーーーーーー。
今から1年前、赤ずきんちゃんは母に呼ばれ何時ものようにおばあちゃんの家にワインとベーコンとパンを届けに行きました。


行く途中には綺麗な花が咲き乱れていて、赤ずきんちゃんは母の言い付けを破り、その花と戯れてしまいました。

充分遊んだあと、おばあちゃんにあげる為に摘んだ花束を片手に抱いておばあちゃんの家へと急ぎました。

家の前まで来ると、何だかいつもと違うような気がして、辺りを見渡しましたが、いつもと変わりはありませんでした。
けれど赤ずきんちゃんは玄関ではなく窓へと回り窓から家の中をのぞきこみました。


するとそこに見えたのは


ベッドの上で恐怖におののき声も出すことも出来ず震え上がるおばあちゃんとそれをじっと動きもせず見つめる・・・・・・


狼の姿でした。



赤ずきんちゃんはビックリして声を出そうとしましたが、恐怖の余り声が出ません。


けれど狼はゆっくりゆっくりおばあちゃんに近づき、年老いた力で精一杯抵抗するおばあちゃんを意図も簡単に殺してしまいました。

そしてそれをあたかも当たり前のように、王者の風格を示すようにゆっくり食べ始めたのでした。




赤ずきんちゃんは声も出すことも、その場から動く事も、泣くことも出来ずただ立ち尽くしていました。

そうしてその様子をただじっと見つめていたのです。


狼はおばあちゃんのすべてを食べ尽くすと満足して家を出ていきました。



狼が帰ってから暫くして赤ずきんちゃんはやっとその場から動く事が出来ました。

けれど赤ずきんちゃんが受けたショックは想像も出来ないくらい相当なもので・・・・・・。

赤ずきんちゃんは正気を逸脱してしまったのです


『おばあちゃんを死なせてしまった』

『あたしが声を出せなかったから』

『動く事も出来ずただ見てたから』

『大きな声を出していたら、誰かが気付いてくれたかも知れないのに』

『あたしがお花なんか摘んだりしてなきゃ』

あたしが・・・・・・

あたしが・・・・・・

あたしが・・・・・・

あたしが・・・・・・

何度も何度もおんなじ思いが赤ずきんちゃんの頭の中を駆け巡り・・・・・・

気付くとそこには赤ずきんちゃんの体をした赤ずきんちゃんではない誰かに変わっていたのです。

『私は悪くない』
『私は悪くない』
『私は悪くない』


『あいつのせいだ』
『あの狼のせいだ』

『憎い 憎い 憎い』

そこにいたのは、もう赤い頭巾を被った可愛いらしい少女ではなく、まるで獣のような少女でした




それから赤ずきんちゃんは普段は普通の女の子として暮らしていましたが、おばあちゃんの家に近づくと、別人になるようになりました。

狼を狩って来ては、おばあちゃんが恐怖に震え上がっていたベッドにくくり付け逃げる事が出来ないようにしました。

そしてそのまま放置して弱らせ、赤ずきんちゃんはワインとベーコンとパンを持ってまたおばあちゃん家にやって来るのです。

『どうしておばあちゃんの目はそんなに大きいの?』

『ああ、こうやって目を潰しやすいようにね』

と言って両目を潰しました。

『どうしておばあちゃんの耳はこんなに大きいの?』

『ああ、こうやって耳が切りやすいようにね』

と言って両耳を切り落としました。

『どうしておばあちゃんの口はこんなに大きいの?』

『こんな大きな口があるからいけないんだ』

そう言うと赤ずきんちゃんは裁縫の得意だったおばあちゃんの裁縫道具から大きめの針を出し、狼の口を縫い付けて行きました。

そうして持ってきたワインの瓶で狼の頭を殴り殺してしまいました。


そしてそこにいるのは返り血を浴び薄笑いを浮かべている少女の姿をした獣そのものでした。


おばあちゃんの家にワインとベーコンとパンを届けに行くのは赤ずきんちゃんの仕事。

今も赤ずきんちゃんはおばあちゃんを殺した狼に復讐しているかも知れない・・・・・・。


『あたしは悪くない・・・だって悪いのは狼でしょ』







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