黒愛−kuroai−
アイ ノ カタチ
◇◇◇
12月下旬、重たい雪が降る。
ボタボタ落ちる雪、
でも、積もることはない。
アスファルトをダークグレーに染めるだけで、すぐに溶けて消えてしまう。
コートに帽子、マフラー手袋、
完全防寒スタイルでテニスコートに向かった。
放課後のテニス部の練習は、もう始まっていた。
今日のフェンス周囲には、数人の女子しかいない。
半月前まで、あんなに女子でひしめいていたのに、随分と観客が減った。
その理由は、柊也先輩の変化。
今までファンに優しくしていた彼は、“私イジメ”を知り、態度を一変させた。
声を掛けられても無視。
差し入れは全て拒否。
しつこく話し掛ける女子をギラリ睨みつけ、
「邪魔だから帰れ」と冷たく言い放つ。
ファンの子に急に冷たくなった彼。
でも、私にはとても優しい。
柊也先輩が間近に見える特等席で手を振ると、白ジャージの彼は練習を中断し、駆け寄って来る。
「今日も応援サンキュ。
寒いから、コレ持ってろよ」
そう言って、フェンスの編み目から渡された物は、使い捨てカイロ。
私の手の中で熱を放ち、温かな幸せ気分を与えてくれた。