黒愛−kuroai−
柊也先輩は、席に着いてから気付いたようだが、
向こうは先に気付き、こっちを睨みながらヒソヒソ話している。
彼は元カノの方に斜めに背を向け、私にメニューの相談をする。
普段の彼はメニューに悩んだりしない。
即断即決タイプなのだが、今日は違った。
「茄子とトマト、いやボンゴレ…どうしようか…愛美は?」
珍しくメニューを相談する彼。
明らかに動揺している。
私の注意をメニューに引き付け、元カノの存在に気付くなと言いたげに見える。
一つテーブルを挟んだ右横から、清宮鈴奈達の会話が聞こえる。
「鈴奈の元カレ、最低だよね。
鈴奈があんなことする訳ないのに、何で信じないかな…」
「正誤も分かんない、その程度の頭だってことでしょ?
ケンイチ高だもん、レベル低いんだよ。
鈴奈、別れて正解だよ」
「2人とも、ありがとう。
私のことで随分心配かけたよね。
もう平気だよ。顔見ても何も感じない」