黒愛−kuroai−
アカイ イト
◇◇◇
4月、高校に入学してから数週間が経つ。
授業終了の鐘と同時に教室を飛び出し、テニスコートに走った。
目的は一つ。
愛しの彼を見るためだ。
友人の“菜緒”が息を切らせて隣に立つ。
「愛美(マナミ)ー、速過ぎ。
そんなに急がなくても、まだ誰も来てないじゃん」
確かにまだテニスコートには誰もいない。
今日も私が一番乗りだ。
それくらいの気構えがないと、
良い場所は確保出来ない。
うかうかしていたら、
フェンスの周囲はすぐに女子生徒で埋まってしまう。
まだ呼吸が落ち着いていない菜緒に言う。
「付き合ってくれなくてもいいんだよ?
柊也(シュウヤ)先輩を堪能するのは、私だけでいい」
「えー友達でしょー?
仲良くしよーよ。私だって柊也先輩見たいしー」
「菜緒!」
「あ…何その怖い顔…
私の場合はただの目の保養。
愛美みたいに、身の程知らずな夢は抱かないよ」
身の程知らずな夢?
それは違う。