黒愛−kuroai−
 


午後4時頃、病室に若い男性医師と、若い女性看護師が入って来た。



この医者は“緒方先生”


研修医なので、まだ患者の受け持ちは出来ないが、指導医に言われた業務を、毎日コツコツ熟している。



私の傷の消毒も、緒方先生の仕事。


毎日朝夕やって来て、傷や手術創の具合をチェックし、消毒して去って行く。




今日も包帯を解かれ、ガーゼを剥がされ、肌を露わにされる。



新米医師の彼は、いつも真剣だ。


他の先生達が適当に終わらせる仕事も、彼は慎重過ぎるほど丁寧に行う。


見落としがあっては大変だと、常に神経を張り巡らせているみたい。




若い看護師からピンセットを受け取り、消毒液滴る綿花で肌に触られた。



肉と肉の縫い目に、鋭い視線を向ける彼。

獲物を狙う肉食獣を思い出し、その目にドキドキした。



< 272 / 276 >

この作品をシェア

pagetop