逢いたい~桜に還る想い~
───あたしは、するりとその腕の中から抜け出し、
「迎えに来てくれて、ありがとう。
もう、大丈夫」
そう言いながら、「波奈さんのマンション、こっちだよ」と、先を歩き出した。
───あたしが泣いていたことに、気づいていたであろう郁生くんは、
もう、何も言わなかった。
無言のまま、15分ほど歩いて波奈さんのマンションに着くと、
「駅前に自転車置いてきたから、このまま帰るね」
と、郁生くんは手を振って、背を向けた。
離れていくその背中を、
あたしは、いつまでも見つめながら……
───もう、触れられない。
隣にいることさえ、叶わない。
笑いあえるかも分からない未来を思い、壊れそうな心を、
あたしは、必死にしまいこんだ────