逢いたい~桜に還る想い~
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溶けて少し小さくなった氷が、カランと涼しげな音をたてる。
あたしはぼんやりとそれを見つめながら、汗のかいたアイスコーヒーのグラスを、指先でなぞっていた。
あらゆる種類の時計が所狭しと飾られた、コーヒーが自慢の喫茶店。
少し薄暗い落ち着いた2階席に、あたしは1人座っていた。
壁の大きな古時計が“ボーン…”と1回鳴って2時半を告げた時、木の階段を足早に上がってくる音がして、
「わりぃーな、待たせた」
あたしの目の前に、ドカッと座ったのは───雄仁。
「外、あっちーな。
おまえ、ちゃんと飯食ったか?」
学生達から“おやじさん”の愛称で親しまれている髭のマスターが持ってきたお冷やをグイッと飲み、
雄仁はメニューを指差しながらホットコーヒーを注文した。
「……暑いのに、ホットなの?」
あたしが軽く笑うと、
「アイスだと、コーヒーの香りがわかんなくなんだよ」
雄仁も笑って答えた。