逢いたい~桜に還る想い~

    ★    ★


溶けて少し小さくなった氷が、カランと涼しげな音をたてる。

あたしはぼんやりとそれを見つめながら、汗のかいたアイスコーヒーのグラスを、指先でなぞっていた。


あらゆる種類の時計が所狭しと飾られた、コーヒーが自慢の喫茶店。


少し薄暗い落ち着いた2階席に、あたしは1人座っていた。


壁の大きな古時計が“ボーン…”と1回鳴って2時半を告げた時、木の階段を足早に上がってくる音がして、


「わりぃーな、待たせた」


あたしの目の前に、ドカッと座ったのは───雄仁。


「外、あっちーな。

おまえ、ちゃんと飯食ったか?」


学生達から“おやじさん”の愛称で親しまれている髭のマスターが持ってきたお冷やをグイッと飲み、

雄仁はメニューを指差しながらホットコーヒーを注文した。


「……暑いのに、ホットなの?」

あたしが軽く笑うと、


「アイスだと、コーヒーの香りがわかんなくなんだよ」


雄仁も笑って答えた。



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