逢いたい~桜に還る想い~

「あたし……思い出してないこと、きっとまだ沢山ある。

だって、“澪”って名前すら、忘れてた。

あの……混乱の中で、誰かに恨まれても……誰かを殺してたって、不思議じゃな……」


「───トーコさんっ!」


郁生くんの声と、あたしの手を握る力が強まった。


「もう───縛られるの、やめよう?
もう何も思い出さなくていい………思い出せない方がいいよ。

……だって、姿が違う。時代も違う。
名前も、家族も、友達も、取り巻く環境だって………

今あるのは全部“トーコさん”を作ってきたもので、“澪”はもうどこにもいないんだから」


「でも………」


「───夢って、心理状態や不安定な気持ちが抽象的に顕れることもあるっていうからさ。

“澪”や前世にずっと不安を抱えてたら、夢は消えないよ。

……取りあえずさ、寝付くまで側にいるから。2階行こ」


そう言って立ち上がった郁生くんは、2階へ向かおうとする。



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