いつもの電車で。

毎日が、毎朝のおじさんとの電車が何より楽しかった。

秋も深まる頃。私はまた寝坊し、今度は二本遅い電車に乗った。できればおじさんに会いたかったけど、おじさんとは前日に会ったし、この電車では無理だろうなと思った。


そう思って、ドアの近くの椅子の隅に何とか座って、下を見ながら単語帳を開いていた。感覚でそろそろおじさんが乗ってくる駅だと思った。
けれど顔はあげず、ずっと単語帳を眺めていた。すると、ドアからおじさんの声がした。

「大丈夫か、無理してないか。ちゃんと言うんだぞ。」

人が間にいてよく見えなかったけど、おじさんは女の人と話しているようだった。

「ふふ、大丈夫。心配性なんだから。でもありがとうね。」

「大丈夫じゃないだろ、全く。仕事なんてやめて家でゆっくりして欲しいのに。おれはいくらでも頑張れるぞ?」

「だめですよ。私は少しでもあなたにもゆっくりして欲しいんです。無理なさらないでください。」

人と人の間から2人を覗いてみると、おじさんと同じ年くらいのおばさんがおじさんと仲良さそうに、おじさんと同じ結婚指輪をした手を繋いで話していた。
< 6 / 8 >

この作品をシェア

pagetop