番外編「雨に似ている」1話読み切り
鬱蒼と木の茂る叢を踏み分けながら、坂道を登り続ける。



「あの日、私は貴女を気絶させた後……国押の屋形へ向かいました。『引け』と命じるために」



大海人は、静かに淡々と語る。



「権勢を誇った家が滅びる様を、私はつぶさに見ていました。信じられないくらい、あっけなく堕ちるのを」



いきなり、目の前が開けた。




「……!!」



絶句し、額田王は凍りついた。



一目で火災にあったとわかる、巨大な二軒の屋形の残骸があった。

黒く焦げた柱は倒れ、屋根はほとんどない。


門の脇に設けられた武器庫らしき建物も、元の形を残していない。


ただ火災に備え設置された些末な用水桶が、僅かに水の入った状態で残されていた。




辺りには今なお、焦げ臭さが残り、ここで死んだ者たちの呪詛の声が渦巻いているようだった。


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