番外編「雨に似ている」1話読み切り
「兄上は今、私を実弟として信じていますが……もし知られたら、いえ噂だけで私は死に値します」




他人ごとのように大海人は口にする。



「忘れてください。すべてを」



大海人は焼け落ちた廃墟から、額田王に目を転じた。



「感傷に流されるのは愚かです。貴女なら望めば幾らでも相手は見つかりましょう」


「……いいえ」


「何も好んで血に染まる、ご自分の夢を見ることはないでしょう」



胸元をきつく掴み、額田王はキッと大海人の目を見つめた。




「違います。感傷などではありません。私には大海人さましか見えません。この命を引き換えにしても」



「いつ……こうなるかわからない覚悟をしておかなければならぬのに」



強い風にとられ額田王の髪が乱れる。

額田王は、髪を指で掻き上げると鮮やかに笑顔を作った。




「愛しています」


青ざめていた額田王の顔に朱がさしこむ。



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