番外編「雨に似ている」1話読み切り
瞬きもしない大きな瞳に、大海人は薄く苦笑いを浮かべ、そっと真綿を抱くように柔らかく額田王の腰を引き寄せた。




「貴女は後悔なさります」


はっきりと聞こえた言葉。


「後悔などいたしません。私が選んだのです。大海人さまが玉葛ならば、私はその花をいただきます。玉葛だからではなく、それが大海人さまご自身だから」



「……愚かな人です」



大海人は小さくため息をつき、額田王を腕に包み込んだ。



「でも……」


大海人は額田王を抱き締めたまま、言葉を選ぶように続けた。



「貴女は強い人だ。貴女は生命力に溢れている」




耳元で囁かれる言葉を額田王は、聞き逃すまいと懸命に耳を澄ませた。



「……私とは違って」


その後、小さく吐息のような声で初めて聞く名が告げられる。


額田王の胸が、とくんと跳ねた。



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