番外編「雨に似ている」1話読み切り
「……それは」



「私が貴方に差し上げられるのは、これだけです」




親から伝えられる、その人自身を表す音。




真名―――!



「大海人さま」



「額田……貴女の名を尋ねてもよろしいですか?貴女の真名を」



額田王は、胸が熱く痛いと感じた。

激しく高鳴り響く鼓動が果たして自分のものなのかと思う。



額田王は、ため息と共に頷き目を閉じた。



瞳から頬に伝うものは、ただ冷たいものではなかった。



暖かな、喜びの雫が幾つも幾つも頬を伝う。



額田王は身体の力を抜き、大海人に身を預けた。



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