番外編「雨に似ている」1話読み切り
譜面通り、正確に演奏するだけが能ではない。


そこに思いを込めて自分の音でプラスアルファを表現する、それが心で弾くということだと思う。




学園前の喫茶店「モルダウ」で、緒方や安坂さんとのコラボも週に1度の恒例となり、楽しく演奏させてもらっているし、評判も上々だ。



大学生になった安坂さんは、早くも学オケの次期コンマスとの噂もあり、オケの中心的存在と期待も高い。




今日の母はやけに機嫌がいい。


海外遠征中の父が久方ぶりに日本公演を行うため、戻って来るとの連絡があった。


父の生演奏。

各言う僕も楽しみで仕方ない。




雨音が窓を鳴らしている。
激しく強く。



父の弾くピアノ演奏のように───。



父の弾く「雨だれ」が頭の中で奏でられている。








父の「ショパン」。

あれほど悩んだことが何だったのか?

父と自分の音は違うと、今なら解る。


弾きながら自分の音を見失うことも、今はない。





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