番外編「雨に似ている」1話読み切り
特等席、いい眺めだ。

だが、寒そうだなと気になりながら、話しかけるタイミングがない。


千鶴さんは店の女子店員の噂によれば数年、同棲同然に交際していた彼と別れて、まだ1ヶ月ほどしか経っていないらしい。


噂を聞いた時は、あんな可愛い女性を振る野郎がいるのかと少々苛ついた。

それにしても寒い。

底冷えしてくるように空気が冷たい。


「如何ですか」

千鶴さんが悴む手を擦り息で暖める。

ケーキが売れるたび、「ありがとうございます」
と、千鶴さんのベビーボイスが響く。

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