番外編「雨に似ている」1話読み切り
「理久くん? 優しいのね」

そう言うと、ヴァイオリンケースを持った男の子が、そっと顔を近づけてきた。


「とくにきれいな人には……実は彼女募集中」と耳打ちし、くすり微笑んだ。


「周桜、どうする? 迎えは来るのか、車に乗ってく?」


「あ、今からメールするとこでした。助かります」


「うん、郁と表で待ってろよ。車回してくるから」



彼らは、そんなやり取りをして表通りに歩いていく。


私にもあんな頃があった。

ふと思う。


台の上に積んであった商品は彼らのおかげもあり、数十分後には数個を残すのみになった。


向かいの店のカウンターから彼、理久の姿が見える。

今まで年下の青年を意識したことはなかったけれど、何となく彼の姿を目で追っている。



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