番外編「雨に似ている」1話読み切り
「積もるかもしれないから早目に上がっていいわ」


礼を述べて、腕時計に目を落とすと、8時半前。


レジに商品を持って奥さんに声をかける。


「1つ、買っていきます」


「いいわよ。寒い中、たくさん売ってもらったんだもの。ご褒美」


奥さんは穏やかに微笑んだ。


「お言葉に甘えて」


「暮れまで、まだ数日忙しいけれどお願いね」


奥さんは言いながら、レジの中身を金庫に移し鍵をかける。


店のカーテンを引き、「お疲れ様でした」と言うと、「ありがとう」の言葉が返ってきた。


朝から何度も口にした、「ありがとう」を誰かから返される温もり、こんなに嬉しい言葉だったんだなと感じた。


< 53 / 54 >

この作品をシェア

pagetop