みあげればソラ
◇生きる場所~山田沙希
「太一?!」
袴田家の玄関先に、塀にもたれて携帯をいじる太一の姿をみつけ、沙希は驚いて声をあげた。
「こんな朝早く、あんた学校は?」
懐かしい弟の顔を見つけた嬉しさよりも、慌しいこの朝の時間に悠然と構える彼の姿に苛立ちさえ覚えて、つい声が大きくなった。
沙希の高校はここから30分もあれば着く。
けれど太一の学校は電車とバスを乗り継いで、更に1時間はかかる場所にある。
この時間この場所にいるということは、遅刻確定を意味している。
「学校なんてどうでもいい。それより姉ちゃん、何で家に帰ってこねぇんだよ?!」
ちょっと口を尖らせて伏し目がちに喋る弟の顔をじっと見た。
家を出てから3ヶ月ほどしかたってないけれど、少し背が伸びて大人びた気がした。
——あれっ? ちょっと髭も生えたりしてるかも。
沙希はちょっと可笑しい気持を必死に抑え、弟を叱咤した。
「そんなことより、学校行きなさい!姉ちゃんが遅刻の連絡いれてあげるからっ!」
太一の腕を掴んで歩き出そうとした沙希だが、頭一つ大きくなった弟は、彼女の力ではびくとも動かなかった。
「あんな学校糞食らえだっ!
俺は姉ちゃんを追い出すために頑張ったんじゃないっ!」
悲鳴にも似た、まだ声変わりの終わっていない太一の声は、袴田家の面々にも聞こえたに違いないなかった。