みあげればソラ
「こらっ! 朝っぱらから煩せぇよ!
こちとらまだ眠いんだ」
大きく伸びをして二階の窓から顔を出した弘幸は、学生服姿の二人の様子を見下ろしていた。
「近所迷惑だ、中入ってやれ!」
ほらオジサンもそう言ってるし、と上を見上げる沙希の腕を、今度は太一が引いて玄関へと引きずっていこうとする。
「オジサンじゃねぇ、オニイサマだ!」
ここで言い争っていても埒が明かない。
弟にこの場所がばれてしまったということは、今この時を遣り過ごしたとしても問題は解決したことにはならないのだ。
沙希が家を出た理由。
そして沙希がここに留まる理由。
太一だって納得できれば大人しく帰るだろう。
仕方なく、沙希は学校へ行くのを諦めて太一について家に入った。
やっと気持の整理がついて自分の立場を納得したつもりだった。
これからは家族と離れ、一人で生きていく覚悟もしたつもりでいた。
「姉ちゃん?」
だが、沙希の愛する弟は、そんな彼女の事情は知らない。
彼女のことを忘れてなどいなかった。