みあげればソラ
「お前が言うように、あいつが優秀な弟なら、どう立ち回るか楽しみだ」
さて、俺はもうひと寝入りするか、と弘幸は自室へ戻っていった。
太一を見送った今、沙希も学校へ行くべきではあったが、とてもそんな気分にはなれなかった。
(わたしが太一に母の期待を背負わせた?)
もしそうだとしたら、今の自分を招いたのは自業自得ということだろうか?
わたし自身が母の愛を放棄したことになるのだろうか?
あの家庭が壊れてしまったのは、期待から逃げたわたしのせい?
呆然として思いにふける沙希を美亜が心配そうに見つめていた。
三人のやり取りに遠くから耳を傾けていた美亜には、今沙希が抱える疑問が手に取る様にわかったのだ。
自分を責めないで、と美亜は思った。
貴方はなにも悪くない、と。
そして彼女は、言葉を口にできない代わりに、白版に文字を書付け沙希に見せた。
そこには綺麗な字でこう綴られていた。
『求める求めざるにかかわらず、子に愛を注ぐのは親の務めです』
それを見て沙希は泣いた。