みあげればソラ
「沙希がいつもお世話になっております」
狭いながらも綺麗に整えられた居間で、慣れた手つきでお茶を差し出すと、彼女は幸恵に向かって礼儀正しく礼を述べた。
「いえ何か特別なことをしてるわけじゃありませんから。
居る場所を提供して、食事を共にして、普通に生活しているだけですから」
幸恵は注意深く、目の前の女を観察する。
「わたし達家族ができないことを代わってしていただいてます。
沙希が家出して、一時はホントに居場所がわからなくて死ぬほど心配したんです」
言葉を震わせて淡々と喋る彼女の様子からは、偽りの感情を窺うことはできなかった。
「それなら、何故、家に戻ってきなさいと、沙希ちゃんに言ってあげなかったんですか?」
彼女は<ふぅ>と小さく息を吐くと、弱弱しい声で語り出した。
「わたし、わかってるんです。
沙希がどれだけ傷ついているか。
沙希をどれだけ傷つけたか。
だから、沙希はわたしから逃げたかったんだと思います。
自分でもどうにもならないんです。
沙希を見てると駄目な自分と重なって、苦しくなって、つい弟の太一と比べてしまって。
心無い言葉が口をついて出てしまって……」
幸恵は彼女の話の中に葛藤を見出した。
「沙希ちゃんは良い子ですよ。
自分より先ず他人の居心地の良さを考えてしまう。
凄く優しい子ですよね」
自と重なる娘の欠点、それは一体何のか?
「そういうところが嫌なんです」
彼女は以外にもきっぱりとそう言い放った。