みあげればソラ
沙希達の父親は、昨今の不況を受け、勤めていた電気会社を依願退職の形で解雇されたのだ。
多少の割増金を積まれたとは言え、家のローンや子供の学費を考えれば、リタイアするには無理があった。
ハローワークで再就職先を探したが、見つかったのは夜勤のある警備会社の警備員の仕事だけだった。
手に職のない営業職だった彼にすれば、それでも職に就けただけラッキーだった。
「ということだ、お前が心配するようなことはない。
長い人生、そういうこともあるさ。
お前の父親はそれでも前向きに家族の為に働いてる。
凄いことだぞ」
あれから居間に場所を移し、みんなで遅い朝食を取って寛いでいた。
「父さん、だから朝帰ってくるんだね」
「そうよ。
だいぶ慣れたみたいだけど、昼夜逆転は辛いみたい」
「俺、私立なんて入っちゃって……」
「それは、わたし達が望んだことだから。
太一は気にせず、勉強に専念して。
子供の為に頑張るのは、親の務めですもの。
お父さんも、貴方達がいるから頑張れるのよ」
美希の表情は優しく、子供を気遣う母親の顔だった。
だが、家の緊迫した事情を知って、黙ってられる沙希ではなかった。
「ママ、わたしにできることって何かある?」
「沙希?」
「わたしだってアルバイトとか、何でもするよ。
ママがパートに出てる間に家事をするとか。
ここでのんびりしてられないよ」
弘幸と美亜は、沙希の言葉を聞いて小さくそっと頷いた。
確かに。
ひとつ屋根の下にいれば、やれることはいくつもある。