みあげればソラ
「この泥棒猫!」
鬼と化した母の罵声を浴びて美亜が震え上がった。
それは雨降る晩。
客の入りが少ないからと店を切り上げた母が、いつもより早く帰宅した日のことだった。
母に、秘密の行為を見られてしまったのだ。
声を押し殺した美亜の上に跨り、スヌーピー柄の寝巻きをたくし上げ、彼女の乳房に吸い付く男の姿は滑稽にも見えただろう。
「育てた恩を仇で返す気かい!」
それは美亜の望んだことではなかったのに。
「だいたいあんたは若けりゃ誰でもいいのかい!」
「いや、こいつが誘うから仕方なく……」
母に縋るように泣きつく男をただ呆然と眺めていた。
「もう義務教育は終わったんだ。出ていきな!」
そう冷たく言い放たれて、家を閉め出された。
高校一年の春休み。
秘密が終わった安堵と、家を失った不安。
どちらが勝っていたかなんて、どうでもよかった。