みあげればソラ

出産から暫くたったある日、幸恵のアパートにイギリスから使者が訪れた。

ピシッとスーツで身を固め、口元に髭を蓄えた、いかにもなイギリス紳士。

「ハカマダユキエさんですね」

彼は流暢な日本語でそう確認した。

「はい」

「あなたには、アルフレッド・アーサー・ノッティンガムとの間に子がありますね」

「アーサー?」

「彼のミドルネームです」

「あぁ……」

「彼はイギリスでは爵位のある由緒正しい家の出です。わたしはノッティンガム家の代理人としてここへ参りました」

「はぁ……」

「ご子息、ハカマダヒロユキ氏にノッティンガム家より贈与の申し出があります」

「贈与?」

「今ここで、贈与を受ける代わりに、今後一切ノッティンガム家との縁を切ることが条件です」

「それは……」

「ノッティンガム家は貴方とアルフレッドの結婚を認めていません」


それは、幸恵にとって寝耳に水の話だった。

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