みあげればソラ
「ユキ、どうした?
なにぼーっとしてんの?」
由貴は雄一の声に我に返った。
「ユウくん」
「さては俺の話、全然聞いてなかっただろ」
「ゴメン」
名古屋の下宿をそろそろ引き払う予定だから、その前に一度遊びに来ないか、と雄一が由貴を誘ったのだ。
その言葉を聞いたあたりから記憶が飛んでいた。
「ユキ、名古屋は初めてだろ。
古い城下町だし、色々連れて行きたいところもあるんだ。
二次試験も終わって、後は発表待ちだろ。
息抜き、息抜き」
国立一本の由貴は、前期が駄目なら後期まで頑張らないといけない。
国立に受からなければ進学は諦める。そう決めていた。
『これならいけるだろ』
弘幸による自己採点では、先ず先ずの手応えだったのだが、由貴本人は不安で仕方なかった。
「ゴメン」
「それって行かないってこと?
マジ凹むなぁ〜」
「ゴメン、ユウくん。
わたし今そんな余裕ない。
ヒロ兄は大丈夫だって言うけど、後期日程まで気を抜けないよ」
「ユキは真面目だからなぁ〜
でも、今回だけは譲れない。
これは決定事項だ、何がなんでも名古屋に来て貰うよ」