みあげればソラ
それから名古屋城で昼食をとった。
名古屋名物のきしめんだ。
「平たいんだね。つるつるしてる」
「東京のうどんは丸くて太いもんな。
俺も初めて食った時は、東京と違うぅ〜とか思ったよ」
「でも、美味しい」
「うん、美味いな」
ユウ君と一緒に食べるから余計に美味しい、その言葉を由貴はぐっと飲み込んだ。
浮かれちゃいけない。
浮かれ過ぎはみっともないぞ。
もう一人の由貴が、頭の後ろで呟いていた。
お城を背に、ゆっくりと徳川園へと歩いた。
名古屋は徳川が代々城主を勤めた縁の地だ。この屋敷跡もその昔の殿様の隠居所だったと聞く。
ここも大戦で建屋を消失し、近年、日本庭園として再整備されたそうだ。
大きな池のある立派な日本庭園。当時の優雅な生活が偲ばれる。
「なんで日本人は庭が好きなんだろう」
水面に移る木々のゆらめきを見ながら由貴がポツリと呟いた。
「自然の景観を身近に留め置こうなんて、最高の贅沢だったんじゃない」
「反面、それだけ自由に自然に触れることが許されなかった、ってことなのかな」
「山や海や湖の景色は万人のものだけど、そこへ行く自由がないと見ることができない」
「こんな広いお屋敷で何不自由なく暮らしていたかもしれないけど。
わたし達が想像する以上に束縛された人生だったのかも……」
「かもしんねぇなぁ〜
俺達には天下を治める重圧も、責任もない。
自分のことさえ心配してればそれで済む。
俺なら今の自由を取るな。
好きな相手とも結婚できなかっただろうし」
確かに束縛された人生は嫌だ。
だけど由貴にはそれが羨ましくもあった。
由貴には何もない代わりに、自由だけは保障されていた。
何処に行こうが、何をしようが、咎める者は誰もいない。
でも、何も期待されない人生って……、当然褒められることもない訳で。
それって結構辛い。