みあげればソラ
それからまた、ブラブラと名古屋の町並みに歩き出た。
右も左もわからない見知らぬ土地。
今日の由貴は雄一の手だけが頼りだった。
なんだか凄く新鮮だ。
地下鉄に乗り、名古屋駅前近くに出るとそこには古い町並みが連なっていた。
「ここは四間道。名古屋でも珍しく昔の建物が残ってる。まぁ、ガイドブックの受け売りだけど」
そう言って雄一は恥かしそうに笑った。
通りを挟んで建ち並ぶ古い町屋の佇まいに、由貴はなんだかタイムスリップしたような気持ちになった。
遠い昔、彼と二人、同じようにこうして並んで歩いたような……
それはデジャブという名の期待。
そんな筈ないことくらい、由貴には十分わかっていた。
「ユキ、疲れただろ、ずっと歩き詰めだもんな」
「うぅん……」
雄一の気遣う言葉に、由貴は言葉を濁した。
雄一に手を引かれこうして歩くことは、由貴にとって疲れより嬉しさの方が勝っていたのだ。
——こうしてずっと歩いて行けたら……
「実は俺も名古屋観光なんて初めてなんだ。
灯台下暗しって言うだろ。
大学はもっと東の方だし。学期中は下宿と大学の往復で終わっちまう。
こうしてユキと一緒に観光できて、最期の最期で、良い思い出ができたよ」
即席ガイドでゴメン、と雄一が恥かしそうに呟いた。
「だよね、わたしだって東京に住んでても、東京タワーさえ上ったことないよ」
「ちょっと休むか」
目に入った、見知った全国チェーンのコーヒーショップで休憩した。
「なんかやっぱ、落ち着くなぁ」
「だね」
「ユキ、これからの予定を一応伝えておくね。
僕の今日のプランによれば、この後僕らは名古屋テレビ塔で夜景を見ることになってる。
その前に夕食済ましておこう。
折角だから味噌カツなんてどう?」
雄一は、見栄をはる理由が無くなったのを良いことに、おもむろにポケットから取り出したメモ帳を見ながら喋り出した。