みあげればソラ
未亜は目の前の弘幸をじっと見た。
「冗談……、じゃないか……」
弘幸の顔は真剣そのものだ。
「わたしの為なら、必要ありません」
美亜は即座に答えた。
確かに、この間の事件は怖かった。
だが、つきつめれば事件を引き寄せてしまったのは自分にも落ち度がある。
そう未亜は考えていたのだ。
「ミアは甘く考えすぎだ。
ああいう輩は性質が悪い。
お前の母親だって、年取って水商売で生きてけなくなったら、何しでかすかわかんねぇぞ」
「それって、わたしに今まで生きてきた縁を全て切れってこと?」
「まぁ、そういうことだな」
「そんなこと……、いくらヒロ兄でもわたしに強制する権利は無いと思う」
空になった皿を手に立ち上がろうとすると、その手を弘幸に掴まれた。
「権利云々の話じゃねぇ。
俺は……、もう二度と美亜をあんな危険な目に会わせたくねぇんだ。
だから……」
「ヒロ兄の気持ちは嬉しいけど、そこまで甘えられない。
今までだって十分守られてきたと思う。
ここに居場所を貰ったから生きてこられた。
感謝してます」
自分は彼に甘え過ぎてしまった。
嬉しさよりも、美亜はそんな負い目を感じてしまう。
「感謝されても嬉しくねぇよ。
美亜は俺にとって、もう身体の一部みたいなもんなんだ。
そう言う意味で言ってるんじゃねぇ」
こんなに身も心も汚れてしまった自分には、弘幸の気持ちを受け止める資格はない。
美亜はそう思い込んでいた。