みあげればソラ
「じゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃい」
そろそろこの仕事も終いにしないとな、と言いながら弘幸は店に出勤して行った。
彼がホストを始めたのも、もとはと言えば美亜をこの家に住まわせる為だった。
経済的に自立すれば、そんな勝手な行為にも目を瞑る。
それが弘幸の母幸恵が出した条件だった。
大学を中退した彼が自暴自棄で始めた人助け。
その第一号が美亜。
「やっぱり元凶はここだよね」
美亜が向かった先は、袴田家にある開かずの間。
そこは、亡くなった彼の妹、亜里寿の部屋だ。
いつもは鍵の掛かっているこの部屋を、今日こそ美亜は覗いてみようと思った。
鍵の在る場所は判っていた。
もう何年もこの家の主婦をしているのだ。
何処に何があるかは自ずと知れる。
美亜は弘幸の部屋のクローゼットの奥にある隠し棚に仕舞われた鍵をこっそり取り出した。
これが亜里寿の部屋の鍵だ、と美亜は確信していた。
恐る恐る、鍵穴に鍵を差し込む。
弘幸がずっと囚われ、封印出来ずに保存され続ける妹の死の理由。
弘幸を追い詰めた、その元凶を美亜は確かめる必要があった。