みあげればソラ
カチャリと音を立て、扉は呆気なく開かれた。
「うっ……、こ、これって……」
美亜は、その部屋の光景に絶句した。
薄緑色のカーテンが引かれた部屋は、緑の光に包まれていた。
部屋には最低限の家具、ベッドと机が残されていた。
勿論、寝具は取り外されている。
机の上も何もない。
でも……、その部屋の壁は、壮絶な彼女の死を物語る黒い染みで埋め尽くされていた。
しね、しね、しね……
しぬ、しぬ、しぬ……
1、2、3、4、5……
○、×、○、×……
一度に書かれたのか、それとも日を置いて書かれたものなのかはわからない。
血塗れた指で書きなぐったような、真っ黒な染み。
その一つ一つが彼女の苦悩の証だ。
生きることより、死を選んで楽になりたい。
死に取り付かれたことのある美亜には、その気持ちが痛いほどわかった。
そして、ベッドの脇の壁に一際大きく書かれた文字が目に入った。
『あたしひとりじゃないよね』
僅か18歳でひとり命を断った彼女は、それでも誰かと繋がっていたかった。
誰かがそこに居れば、もしかしたら救えた命だったのかもしれない。
——弘幸さんはこれを見たんだ……
そして自分を責めている。
美亜には、彼の感じた苦悩がまざまざと想像できた。