みあげればソラ
「酒井さん、ちょっといい? それ終わったら確認したいことがあるから」
由貴が入荷したパンを陳列棚に並べていた時、店長が厳しい面持ちで声をかけてきた。
「はい」
最後のパンを並べ終わり、屈んだ姿勢から空になったケースを掴んで立ち上がった。
——あれ? おかしいな、身体に力が入らない……
空腹と寝不足から貧血になったのか。
ふわりと浮き上がった感覚を最後に、由貴は意識を失った。
気が付くと、そこは店の休憩室だった。
部屋には接客兼打合せ用の長いすが置かれていて、由貴はそこに寝かされていた。
「あ、目が覚めたわね」
程なく顔を覗かせた店長は、直ぐにペットボトルの水を持ってきてくれた。
「ごめんなさいね。本来なら救急車を呼ぶべき場面だったのだけど。
幸いわたしが抱きとめてあなたに怪我はなかったし。
気を失ったというよりは、あなたはそのまま眠ってしまったみたいだったから」
寝てないんじゃない? と店長は彼女の顔を覗きこむように聞いてきた。
「あなたの携帯が繫がらないのと、何か関係があるのかしら?」