みあげればソラ
携帯は支払いが滞って不通になっていた。
連絡を取り合う相手もいない。
由貴にとっては食べることが最優先で、携帯が使えないことなど何の支障もなかった。
だがそれは、彼女の個人的事情に過ぎない。
世間一般には不祥事だ。
「いえ、携帯は料金払い忘れてて。すいません、いろいろご心配おかけして」
一応頭を下げて謝罪したけれど、店長の厳しい表情は崩れない。
「あなたにはこの仕事、向かないのかもしれないわね」
「えっ?!」
「たかがコンビニの店員と思うかもしれないけど。一応接客業だし。お客様が不安を感じるような店員じゃ困るのよ」
「あ、あの、あたし覚えが遅くて要領も悪いですけど、頑張ります!」
「頑張ってるのはわかるのよ。でも……、あなたちっとも楽しそうじゃないし、今日も倒れたでしょ」
店長の向井さんは三十台の女性で、物腰も柔らかくてとっても優しい人だったのだけれど。
「あなたに接客業は向かないと思う。事務職のアルバイトを探しなさい」
と、優しい声で解雇を告げられて目の前が真っ暗になった。
——明日から、どうすればいいの?
高卒で、住所すら無くなった由貴に、正規の職探しなんて出来るはずもない。
「はい、これ今日までのお給料。
で、これは少しだけどわたしからのお餞別。
今日は何か美味しい物でも食べてゆっくり寝るのよ」
優しい笑顔が悪魔に見えた。