みあげればソラ


携帯は支払いが滞って不通になっていた。

連絡を取り合う相手もいない。

由貴にとっては食べることが最優先で、携帯が使えないことなど何の支障もなかった。

だがそれは、彼女の個人的事情に過ぎない。

世間一般には不祥事だ。

「いえ、携帯は料金払い忘れてて。すいません、いろいろご心配おかけして」

一応頭を下げて謝罪したけれど、店長の厳しい表情は崩れない。

「あなたにはこの仕事、向かないのかもしれないわね」

「えっ?!」

「たかがコンビニの店員と思うかもしれないけど。一応接客業だし。お客様が不安を感じるような店員じゃ困るのよ」

「あ、あの、あたし覚えが遅くて要領も悪いですけど、頑張ります!」

「頑張ってるのはわかるのよ。でも……、あなたちっとも楽しそうじゃないし、今日も倒れたでしょ」

店長の向井さんは三十台の女性で、物腰も柔らかくてとっても優しい人だったのだけれど。

「あなたに接客業は向かないと思う。事務職のアルバイトを探しなさい」

と、優しい声で解雇を告げられて目の前が真っ暗になった。

——明日から、どうすればいいの?

高卒で、住所すら無くなった由貴に、正規の職探しなんて出来るはずもない。

「はい、これ今日までのお給料。

で、これは少しだけどわたしからのお餞別。

今日は何か美味しい物でも食べてゆっくり寝るのよ」

優しい笑顔が悪魔に見えた。

< 27 / 207 >

この作品をシェア

pagetop