みあげればソラ
由貴は親に捨てられた子供だった。
それは遥か昔のことで親の顔も思い出せなければ、住んでいた場所さえ覚えていなかった。
おまけに育った施設の職員は、配置転換で移動して連絡がとれなくなっていた。
何処にも、誰にも頼る術のない彼女は、空腹に絶え、眠る場所を探して彷徨った。
雨露しのげる駅は待合ベンチもあって都合が良かったけど、一日中居れば目立つし不審に思われる。
電車に乗って山手線をぐるぐる回って、終電間近でまた駅に戻る。
そんなことにも神経をすり減らした。
いっそ無賃乗車で警察に捕まった方が楽なのではないかとさえ考えた。
だが、彼女はもう二十歳。
未成年ではないから、捕まれば刑務所行きかもしれない。
そうして小銭も尽きた今、彼女は決断を迫られていた。
このままのたれ死ぬか、身を売ってでも生き延びるか。
やせ衰えた自分の身体が、いったいいくらで買ってもらえるのか。
果たして買ってもらえるのか。
由貴には全く検討がつかなかった。