みあげればソラ
さっきの彼女真似ようと、何度も心の中でその言葉を反復した。
『オニイサン、アソバナイ?』
そんな簡単な言葉さえ、発することができない自分が情けなかった。
同じように通りに立っても、声をかけるタイミングも、まして声を発することさえ儘ならず、由貴はただ立ち尽くしていた。
どれくらいそこに立ち尽くしていただろうか。
緊張で身体はコチコチに堅くなって、寒くて、お腹が減って、もう気が遠くなりそうだった。
そこに身体を揺らしながら楽しげに男が歩いてやってきた。
その男は何故か彼女の存在に気が付いて、「ん?」と立ち止まって顔を覗き込んできたのだ。
この時を逃してなるものか! と由貴は最後の勇気を振り絞って声を出した。
「あ、あたしを買ってください……」
発したのは、蚊の鳴くような小さな声だったけど、彼はしっかりそれを聞いて反応した。
「買うって、それ意味わかって言ってんの?」
由貴は小さく頷いた。
「で、いくら?」
「に、にまん」
彼は綺麗な額にくっきりわかる皺を寄せて、「安いな、買った」そう言ったのだ。